
坊主頭に込める『「自分」を殺すな、武器にしろ』という思い
ハゲを強みに変えた人たちの生き様を伝えるインタビューシリーズ。
今回お話を聞いた瀬戸和信さんは、50種類のストリーミングサービスと連携した、米国生まれのワイヤレスホームサウンドシステム『SONOS』日本代表を勤めている。
これまでにも『Fitbit』の日本事業立ち上げや、タブレットPC『Surface』の普及にも尽力してきた。
2020年12月には『「自分」を殺すな、武器にしろ(朝日新聞出版)』を上梓し、強く前向きに生きるための自己との向き合い方を指南している。
| 瀬戸 和信 SONOS JAPAN代表 1978年、石川県金沢市生まれ。日本では知られていない商品やサービスを、日本人の生活に溶け込ませながら新しい習慣を創出する業務に携わる。Acerではマーケティング責任者として“機能を最小限に削ぎ落した5万円のパソコン”を、MicrosoftではタブレットPC「Surface」の日本初代製品責任者として“新しいパソコンの使い方”を、Fitbitでは日本事業立ち上げメンバーとして“腕時計で健康増進するという習慣”を日本で広めてきた。2018年より現職に就き、日本での音楽の新しいライフスタイル提案に力を注ぐ。また、17年に米ギャラップ社のギャラップ認定ストレングスコーチ®資格を取得し、職場の管理者としてメンバーの強みを生かすチーム運営を実践している。著書に、「NewsPicks」の人気連載を書籍化した『クリエイティブ思考の邪魔リスト』(朝日新聞出版)、『「自分」を殺すな、武器にしろ』(朝日新聞出版)がある。 |
日本人の音楽のライフスタイルを変えたい

——現在手掛けられているSONOS、かつてのFitbit・Surfaceと、海外の新サービスを日本に持ち込む事業ならではの苦労はありましたか?
健康管理ができる腕時計だとか、音楽を集約できるスピーカーだとか、初めて聞いたときはそれが実際にどう生活を一変させるのかイメージしづらいものだと思うんです。
だから靴の履き方を知らない人たちに「靴があると歩きやすいよ」と教えるような難しさがあります。
——NOHAIRSも『薄毛に悩むならスキンヘッドや坊主という選択肢がある』ことを提案しているメディア。私からすると当たり前の考え方なんですが「それは新しいですね」と言われることが多いので、それと近いものを感じます。
未来の習慣を普及させる楽しさがあると思っています。僕は新しいことを人に伝えるのが好きなんです。
『SONOS』は、日本人の音楽のライフスタイルを変えるサービスだと思っています。
ミーティングに明るい人が一人いるだけで場の空気がよくなることがありますよね。
それと同じで、SONOSは複数のサブスクリプションサービスと連動したり、自分のプレイリストを管理したり、自宅に複数置けば一つのアプリでそれぞれのスピーカーから同じ音楽や違う音楽を流したりすることもできる。場の空気を音楽で一瞬にして変えられるんです。
日本は世界の中でも音楽のサブスクサービスの普及において後れを取っています。
音楽配信の売上が、海外だと平均58%がサブスクリプションなのに対して、日本は10〜15%。まだまだサブスクの普及の余地があります。
これがそのままSONOSが成長する余地です。
日本の音楽産業は、欧州に6年、米国に4年遅れて2015年にサブスクへ参入しました。
現在の音楽サブスクは、まったく使えなかった昔の音楽サブスクや、iTunesミュージックとは異なり、最新ヒット曲と無限に出会え、圧倒的な利便性で成長していくと思います。
1~2年後には日本人の音楽のライフスタイルは変わっているはずです。そういう光景を見られることを、今、とても楽しみにしています。
自分と向き合い、相手をよく知ろうとすることが日本にいても養える国際感覚

——どういう視点で仕事を選んでいますか?
恋人を選ぶのと同じぐらい難しいですね(笑)
一番は自分がワクワクできるかどうかですね。あとは、錯覚でもいいから、自分じゃないとできないことなんじゃないかと思えることですね。
——どちらもあるのとないのとではモチベーションが違いますよね。その上で、瀬戸さんはきっと国際感覚が武器になっているのではないかと推測しています。外資系企業に勤めなくても、そういった感覚は身に付けることができるのでしょうか?
つい最近、母校で高校1年生に向けて講演をしたんです。その中で国際感覚はどういうものかを学べる漫画として『SLAM DUNK』を紹介しました。
『SLAM DUNK』で描かれているのは、仲がよくなくても、お互いの目的や大義を理解し合ってそれを達成しようという姿。
国際感覚はそれと同じだと思うんです。
文化や育った環境は違っても、お互いの目的を話し合って、すり合わせて妥協点を見つける。日本企業でも重要なことですが、それはそのまま国際感覚にも当てはまると思うんです。
ただし、きっと高校生のイメージだと『国際感覚=英語力』だと思ってしまっている。
道具として、英語は確かに必要ですが、それだけではないということを伝えたくて『SLAM DUNK』を紹介しました。
——まずは相互理解が大事だということですね。
そうです。ずっと日本で過ごしていると、お互いの共通点に甘えて相手のことを知ろうとしないというのはよくあることです。
『お互いのことをよく知らない』という前提に立っていると、相手について都度関心を持つことができます。逆に過剰な期待もなくなります。
これはコミュニケーション全般において必要なスキルだと思っています。

——日本は特に、言葉を交わして理解しようとする努力をせずに『察する』ことが求められている文化を持っていると思います。それが同調圧力につながっていて、それは厄介なものだと思っているんです。例えば、坊主やスキンヘッドにしたくても、目立つからやめろという圧力があります。
僕は2005年に中国にいたときに、現地の床屋さんに「ベッカムみたいな髪型にしてほしい」とお願いしたら坊主頭にされてしまったんです(笑)
それ以降ずっと坊主なんですけど、坊主は目立つからよくないなんて思ったことはないですね。
むしろ、顔を覚えてもらえるし、同じような頭の人を見かけた人から「瀬戸さん、今日新宿にいた?」なんて連絡が来ることがあるんですよ。僕じゃないのに(笑)
こっちから連絡をしなくても、相手から連絡が来るのは便利ですよね。
それに自分を覚えてもらえることは、それだけでチャンスが広がることだと思っています。
覚えてもらえることはビジネス上でもメリットのはずなのに、スキンヘッドや坊主を禁止している企業があることを聞いて驚きました。
差別的だと感じてしまいます。見た目ではなくてその人がどういう人格を持った人なのかを重要視すべきですよね。
だから自分自身も、誰かに合わせるのではなくて『自分』と向き合って、育てて、強みにする。
そんなことを『「自分」を殺すな、武器にしろ』に書いたので、ぜひ多くの方に読んでもらいたいと思っています。
自分らしく生きるために大切な2つのこと

——同調圧力に一度は負けてしまっても、何かきっかけがあってそこから抜け出せた、例えばNOHAIRSのインタビューだと、薄毛に対して悩むことをやめて、坊主やスキンヘッドに切り替えることができた人たちと出会ってきました。そういう一歩踏み出すきっかけづくりには何が必要だと思いますか?
2つあると思っています。
1つは選択肢を減らさないこと。
選択肢を減らさないために必要なのはお金だと思っています。
選択肢の多さというのは経済的な豊かさと比例するはずです。お金がないために選択肢を減らすようなことはもったいないですよね。
だからお金と向き合った方がいいと思っています。
そんな意味を込めて、この前の母校での講演会では『インベスターZ』という漫画も紹介しました。
これは、超進学校の投資部が3000億を運用し、いかにして8%以上の利回りを生み出すかということを描いた漫画。
社会に実際に出てみないと、お金のこと、経済のことはわからないものです。当然、国際感覚だってつかめません。
お金の流れに漫画で触れて、疑似体験ができる。そういう意味で『インベスターZ』を勧めてみました。
もう1つは行動することですね。
例えば、高校生への講演会で話した『SLAM DUNK』や『インベスターZ』も、僕が150人の生徒に勧めて、果たして実際に何人が読んでくれるんだろうと思います。
人から教えを請うたり、有益な情報を得たりしても、実際に行動しないと意味がないし、それができる人は意外に少ないんじゃないかと感じています。

——薄毛に悩む人と接していると、コンプレックスが行動を邪魔していると感じることがあります。
僕の本にも書いたことになりますが、コンプレックスは武器にすべきだと思います。
例えば僕は大学を卒業していないことがコンプレックスだった時期があるんです。
——そうなんですか!驚きました。外資系企業でのご活躍のある方の中では珍しいですよね。
そうなんですよ。でも最近は、そのことを話すと驚いて、面白がってくれる人が増えたんです。
自分にとってコンプレックスだったことが、そうでなくなることがあると思うんです。
同じように、2005年に意図せずに坊主になってしまって以来、みんなハゲだの坊主だの言うけれど、それで覚えてもらっているんですよね。強みになったと思っています。
鏡を見て髪型をチェックする時間も必要なくなったし。
『モテたい』という原動力が自分を強くする

——最後に、瀬戸さんにとって憧れの人を教えてください。
映画『マイ・インターン』のロバート・デ・ニーロ演じるベンというキャラクターが好きです。
とても知見のあるシニア男性が、縁の下の力持ちとなって若いCEOを支える。決して出しゃばらない。格好良いおじさんだと思いました。
そういう人になってモテたいと思いました。
——今でも十分モテるんじゃないんですか?
それはわからないけど、何をするにも根底には『モテたい』という思いはありますね。
これもまた漫画の話で『はじめの一歩』の中の伊達英二というキャラクターが、世界チャンピオンを賭けた試合で、一度破れた相手に再び勝負を挑むんです。
「前回、2ラウンドKO負けして、なぜまたチャンピオンに挑戦するんだろう」と自問自答したときに、原動力の根底に、妻に格好良いところを見せたいという思いがあったことに気が付くんです。
だから男性は基本的に、女性からモテたいがために頑張れるものなんじゃないでしょうか。
「なぜそれをやるの?」という質問を繰り返されると、きっと3回目ぐらいには「モテたいから」という答えに行き着くんだと思います。

「こうなりたい」と思う憧れの像を誰しもが持っている。
しかし、現実とそこまでの距離を考えると、足がすくんだり、途方もなさに絶望して立ち止まったりしてしまうこともあるだろう。
そんなときは瀬戸さんの『選択肢を減らさない』『行動する』という言葉を思い出してみてはどうだろうか。
モデル:瀬戸和信 SONOS 日本代表 / 撮影:長谷川さや / インタビュー:高山 / 編集構成:東ゆか