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多様性とか、サッカーとか、髪形とか

8月某日、ダイバーシティあふれる街、新宿を拠点とするサッカークラブCriacao Shinjuku(クリアソン新宿)などを運営する株式会社Criacaoを訪れました。

NOHAIRSの取材を受けてもらったことからご縁ができた、
新卒採用などの人材サービス、アスリートによる研修やイベント事業なども営む株式会社Criacaoで働く竹田好洋さんと神田義輝さんを始めとし、

人事のスペシャリストである安田雅彦さん、クリアソン新宿キャプテンの井筒陸也さんも交え、多様性をテーマに座談会を開きました。

企業とサッカーの例を交えながら、組織論、日本の現状、対話についてディスカッションを行なった様子をレポートします。

 

   参加者   

・竹田好洋さん

高校卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)に就職。会社内大学派遣制度にてベンチャー論、経営学を学ぶ。2010年–2014年、株式会社efcuoreを創業し、フットサルメディア「スマイルフットサル」を立ち上げ、コミュニティ事業を展開。2014年から株式会社Criacao取締役CSO

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・神田義輝さん

リクルートキャリアにてキャリアアドバイザーを経験した後、Jリーグにて選手のキャリア教育プログラムの開発・運用、セカンドキャリアのサポートに従事。アスリートキャリアサポートの第一人者で、株式会社Criacaoのほか、Jリーグ水戸ホーリーホック取締役、社団法人理事として多方面で活躍中。

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・安田雅彦さん

1989年に新卒で入社したセゾングループ・西友から人事のキャリアをスタート。GUCCI、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アストラゼネカ、LUSH Japanといった外資系企業の人事を担当。今年独立し、現在は株式会社We Are The People代表取締役。

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・井筒陸也さん

関西学院大学サッカー部で主将として、2015年に大学サッカー史上初の4冠を達成。2016年にJリーグ徳島ヴォルティスに加入し、3シーズンで54試合に出場。2019年1月から株式会社Criacaoに入社。クラブ事業部のPR・デジタル戦略室長として勤務しながら、関東リーグ1部に属するサッカークラブCriacao Shinjukuで主将を務める。

 

・高山芽衣

NOHAIRS代表・株式会社Passion monster代表取締役社長。

 

  1. 多様性は必要か?
  2. サッカー選手はコミュニケーションがうまくない?
  3. サッカーで、言語によるコミュニケーションは有効か?
  4. 組織づくりに多様性を生かすには?
  5. 髪の毛の規制が外れたら?

 

ー 多様性は必要か?

竹田:自己紹介を含め、最初に少し話をしてもらいましたけど、今日は井筒の方が、髪形がマイノリティーというか…。

 

一同:(笑)

 

竹田:今回、ご縁があって、こういう機会を持てることになりました。先日、安田さんと少しお話した時に、多様性について面白い視点の質問をされるなと思いまして。

 

安田:長く外資系企業で人事を務めてきましたが、企業はダイバーシティが大事だと言っています。人権の観点もあるし、みんな違って、みんないいというような考え方もあります。「うちの会社に多様性が必要だ」と言う人は多いのですが、「なぜか」と尋ねられたら答えられる人は少ないんじゃないかと思います。「時代の流れ」くらいで止まってしまわないですかね。

 

神田:ジェンダーダイバーシティが、日本は遅れていますよね。外資系企業は、思想として、仕組みとして、ダイバーシティを担保しているのですか?

 

安田:年を取っている男性が一番偉いという価値観はないですね。海外では「多様じゃないとまずい」という切迫感があります。人事において、女性比率など数値の目標を求められます。かつて働いた外資系企業では、次代を担う幹部育成のプランのリストをつくる時に、女性やマイノリティーというページがありました。海外では、民族、人種の差別はずっと昔から問題としてあり、差別が明るみに出た企業には、不買運動が起きる。それに対して、日本では最近言い出した、という印象があります。

神田:日本のスポーツ界でも「ガバナンス・コード(統治指針)」ということが言われるようになってきました。国内初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」でも、女性の比率を上げています(クラブ運営法人の役職員の50%を女性とし、役員にも最低一人は女性を登用するよう義務化)。しかし、その一方で、なぜそれをやるのかという議論がありません。思想がなく、形骸化する可能性あるのではないかと気がかりです。

 

安田:私が働いた外資系企業では、女性の比率などの数値目標があります。では、なぜその目標を達成しようとするかと言うと、達成できないとリーダーの評価に関わるから。日本の企業ではそこまではならない。切迫感が違いますね。

 

高山:私の周りにも、結婚したら仕事を辞めたいという人はいます。達成できるかどうかには、女性の意識も関係があるのではないかと思います。

 

安田:サッカーにも、ダイバーシティという考え方はありますか?

 

井筒:日本の歴史で見れば、スポーツは軍隊を育てるための体育として発展してきた側面があるので、現在も上に立つ人の号令に従って「右向け右」のようなものが残っているかもしれません。また、日本の家父長制の影響は部活動にも見られます。部活動は、多様性ゼロの集団かもしれません。でも、最近は、個人の時代と言われるようになって、その中で、「スポーツクラブは何をするところなのか」と問われるようになってきた。集団を制御する監督のパワーも下がる一方で、マネジメントはできていないところが多いんじゃないでしょうか。

 

サッカー選手はコミュニケーションがうまくない?

高木:(元プロ野球千葉ロッテの)里崎さんの講演を聞いたことがあって、最近はコーチが教えるよりも、個人が自分の考えのもとトレーニングをやっていることが増えているそうです。一方で、(管理しきれず)けがが増えている問題もあると。個人とチームのバランスって、どのように考えるものなんですか? うちのチームはこうだから、というようなものはあるんですか?

 

井筒:自分はプロでは二人の監督の下でしかプレーしていませんが、監督がどこまでマネジメントしたいかによると思います。練習にほとんど来ない監督もいたりします。逆に、(疲労度をコントロールしたいので)自主練習をしないでくれと厳しく管理したい監督もいます。僕の場合も監督から(所属クラブのある徳島から)東京などの遠くに出ることを「橋を渡るな」という表現で、止められたこともありました。

 

安田:企業では、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)やマイクロアグレッション(悪意無く傷つけてしまうような行動・言動)をしないように、という流れがあって、「関係性をきちんとつくっていこう」と言われるようになりました。サッカーでも、そういう努力はするものですか?

 

井筒:バッと言って、傷つけてしまうこともありますね。サッカー選手は、コミュニケーションがうまくないと思います。パスでコミュニケーションすることに、慣れすぎていて。あと、「みんな、同じだよね」という前提で、ディスコミュニケーションが起こります。確かに、多くのサッカー選手が、その街で一番サッカーがうまくて、強い高校に入って…と、同じようなバックグラウンドなのかもしれません。でも、ちゃんと掘り下げると違いがあるのに、コミュニケーション不足で同じに見えてしまう。それで、(不満の)ゲージがマックスになると組織が空中分解してしまう。クリアソンは、Jリーグでやった人、サークル出身、大企業で働く人、ベンチャー企業で働く人など属性が元々分かれているので、それぞれ違うという前提でやっているので、コミュニケーションを大切にしてうまくやっていますが。

 

神田:同じサッカーでも、見てきたものが違うんですよね。サークルとプロでは。

 

井筒:コミュニケーションをどうするかは、本当に現在進行形です。

 

安田:コミュニケーションを学んで、人間関係は努力しないとよくならないと思いますね。例えば、(ギャラップ社の開発したオンライン才能診断ツール)ストレングスファインダー®などをやったら、自分がその人に対して思っていたのと全然違うとわかって、そうすると、対応の仕方を変えますよね。努力してつくる信頼関係がありますし、座学で学ぶこともあります。

 

井筒:(劇作家の)平田オリザさんの本で、「日本には対話の文化がない」とあるのを読んだことがあります。サッカーでも激しい口論はあるけれども、対話にはなっていません。平田さんの本にもあるのですが、それをすり合わせるには技術が必要。プレーの答えのすり合わせが、(当事者の選手間の)パワーバランスで決まっている場面が多くあるのではないかと思います。Jリーグを経験した自分が、サークル出身の選手に強く言ったら、それは対話にならないと思うので、そこは言い方を考えたりはしますね。

 

高山:こんなチームで育っていると、対話がうまいとかはあるんですか?

 

井筒:サッカーエリートではない人、むしろエリートに虐げられてきた人の方が、コミュニケーションがうまいと思います。その意味で、クリアソンには、そうした人が多いかもしれません。

 

サッカーで、言語によるコミュニケーションは有効か?

神田:コミュニケーションの修練には時間がかかるじゃないですか。サッカーチームも言語コミュニケーションを入れると、よくなるのかな?

 

井筒:うちの監督は思想が強い人で、時々、あえて変わったことをやることがあります。明らかなファウルなのに止めないとか。それは、試合でもそういうシーンがあるからです。僕は、今の監督と大学でも一緒にやっていたので「そういう意図があるんだろうな」と察して続けますが、他の人は、なぜそんな理不尽なことをやるのかわからない。「もっと説明したらどうか?」と監督に進言してみたら、理解を示してくれながらも「スポーツは何かわからないけど、知らず知らずのうちに体得する」とか「非言語でないと繋がれない部分もある」ということも大事にしていると言われて、コミュニケーションすべてではないことにも気づかされました。自分は理解できたものの、他の選手にどう説明したらいいのかと困ったりもしますが。

 

安田:ビジネスもそうですけど、結果が出ていると何も言われないところもあるんじゃないですかね。

 

井筒:確かに。疑問の声が上がったのは、チームの結果があまり出ていなかった時でしたね。

 

神田:今、言語コミュニケーションの重要性は高まっていると思います。現代のサッカーは、天才ストライカーが一人で何とかするのではなくて、まずはシステムを理解して動いて、その上にメッシのような異才が乗っかる。まず戦術で動けることが前提。データを使った戦術を学ぶには、言語の力が大きいです。

 

安田:そこでは言語が有効になってくるんですよね。

 

高山:コミュニケーションは自己開示が大事じゃないですか。それは、どうなんですか?

 

井筒:自分の弱点をさらすのは不利になる、と考えてしまうのが、アスリートマインドです。でも、例えば、僕は足が遅いと言っていたから、他の選手がサポートしてくれることもありました。

 

組織づくりに多様性を生かすには?

神田:成果の軸と心理的安全性の軸で、マトリックス図を書くことができますが、一般的には、この二つが背反関係に見えないですか。けがをしているのを見せるとやられるというのは、動物的な考え方ですよね。

 

竹田:あるお店の経営者から、徹底して競わせることで成果を上げているという話を聞いたことがありました。

 

安田:心理的安全性も、人それぞれ。部内で競わせるとか、ストレスの多いマネジメントは昔のスタイルかもしれません。伸び伸びやらせた方がいい人もいるし、私なんかは、多少のストレスがあった方が、成果が上げられるタイプです。

 

井筒:サッカーも、一人で結果を出せる時代じゃなくなってきました。全員と、とは言いませんが、ピッチ上で2、3人とうまくプレーで関係をつくれる人は生き残れます。昔は傭兵のように、一人でも、いい武器を持っていれば成果を上げられると考えられていました。今は、誰かと結託できないと勝ち残れなくなっています。

 

竹田:サッカーチームは一年ごとにメンバーの入れ替えが多いから、ハードルが高い気もしますね。典型的な日本企業のように、同じメンバーでずっとやれるなら、永続的な成長には多様性が必要となるかもしれませんが。

 

井筒:短期は同質なメンバーで一気にやれると思います。長期では、イノベーションのジレンマじゃないけど、新しい発想のために変わった人がいるといい。

 

安田:組織には、多様性の根底になっている価値観があります。何のために、この組織が存在しているのかには共感していて、そこを握った上で、ケイパビリティは考えるが、どんな属性でもいいですよ、となるものですよね。

高山:そのポジションにどの人を置くのかという時に、ダイバーシティなのか、成果を上げられる人を置くのかは、どう考えるのですか?

 

安田:ダイバーシティか、マネジメントの切迫感かは、考えています。今は時代として、ダイバーシティに寄っている。(ダイバーシティ重視で)下駄をはかせたら逆差別だという人もいますけど、社会の変革に貢献しないことのリスクの方が高い、と企業は考えますよね。今のところは、ダイバーシティに向き合っている会社の方が、結果が出ています。

 

神田:キャリアのバリューを上げるのに、そこに向き合った方がいいということですね。3年で辞めるかもしれないけど、ダイバーシティに向き合った方がいい。そう考えると、Jリーグ選手の価値を計る要素は少なすぎるかもしれませんね。

 

安田:会社でも営業マンはちょっと別ですよ。評価は、与えられた目標を達成できたかどうかによりますからね。

 

神田:一連の話を聞いていて、「組織の方針がないと、末端はそうならないよね」と思いました。例えば、オリンピックのスケートボードは、仲間同士で健闘をたたえ合っていて、仲がいいけれど、あの選手はどこの国の人かと聞かれると「わからない」と言う選手もいるそうです。国はあまり気にしていない。そう考えると、サッカーの構造が社会から置いていかれないかと不安に思いました。私の知る限り、Jリーグは25年あまりで女性社長は2人しか出ていないです。

 

高山:どうしてそうなるんですか?

 

神田:サッカーは、長年に渡って、男性社会のモノだと考えられているからではないかと思います。

 

安田:サッカーは、男女混合でやらないんですか?

 

神田:やらないですね。男女混合でできるのかは、競技のルールに則るのでは。サッカーも競歩のように歩くなら、男女一緒にできますが、全速力で走るから、ぶつかって危険となります。

 

髪の毛の規制が外れたら?

高山:パンテーンのキャンペーン(#令和の就活ヘアをもっと自由に)で協賛企業を回った人の話を聞いたのですが、担当の人は賛同してくれるけど、最終的に、会社のロゴが出せないということもあったそうです。どうして、こうなるんですかね?

 

安田:それは、企業の上の人が賛同していないからでは。私が思うに、今は、大人のオヤジと若者とのズレが有史以来いちばんひどいかもしれません。共通の話題で盛り上がれることが100%ない。だから、容姿の話をしたりして、結果としてセクハラになる。現代は、世代間のコミュニケーションの断絶が大きいです。

 

高山:サッカーは、髪形が自由ですよね。

 

井筒:高校は厳しいところも多いです。自分がいた大学は保守的なところでしたし。プロでも、髪を染めちゃいけないチームもあります。ライブでステージ上のアーティストを見て思ったのですが、髪の毛はライブ映えしますよね。サッカー選手の髪形もスタジアムで見えるように、金髪にしている人とかいますけど、アーティストと違って、文脈がなくやっている気がします。

 

安田:昔のサッカー選手では、バルデラマ(金色のドレッドヘアで知られたコロンビア代表のレジェンド)やイギータ(ドレッドヘアの長髪。GKの常識を覆すプレースタイルだったコロンビア代表)のような人もいました。プレーも個性的でしたよね。髪の毛の規制が外れたら、発想が変わるかもしれませんね。

 

神田:うわ、懐かしいなあ。

 

竹田:あっという間でしたが、多様性の街、新宿にいるから、今日みたいな話ができたのかなと思います。皆さん、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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