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偏見や枠組みなんて気にしないで、思うままに生きればいい

ニット帽に眼鏡、口元にはヒゲを蓄え、デニムシャツを着こなすとてもお洒落なこの男性は『銀座 松崎煎餅(株式会社 松崎商店)』の代表、松崎宗平さんである。

そんなスタイリッシュで格好良い松崎さんは、ハゲていることに悩んだことは一度もないのだという。

今回はそんな松崎さんに、キャリア形成、自身の変化、生き方などを聞いた。

上を目指すか、家業を継ぐか

大学時代からアルバイトをしていたITベンチャーに、卒業後そのまま就職しました。

最初は簡単なウェブデザインから始めて、プログラミングも学んで、営業もできるようになってと、スキルや実績を積んでいったらチーフアートディレクターにまで出世したんです。

その後、このまま続けていくか、家業の『銀座 松崎煎餅』を継ぐか迷って、父親に相談したら「好きにすればいい」と言われて。

両親から店を継げと言われたことはありませんでしたが、10歳ぐらいまで店舗の2階に住んでいたし、小さい頃から祖父と一緒に店先の掃除をしていたから、家業はすごく身近な存在だったんです。

正直なところ、自分か継がなかったら店はどうなってしまうんだろうという心配もあったので、27歳のときに跡を継ぐことを決めました。

入社して最初の半年は店で接客をして、それからバックオフィス業務にまわったら、今のうちの会社に足りないものが見えてきたんです。

例えば、今ではあって当たり前のお店のホームページすらなかったので、そこで僕がドメインを取得してホームページを作りました。前職の経験がダイレクトに活きましたね。

当時は僕が27歳で、バックオフィス側の社員の中心は60代の人たちばかり。社員の平均年齢が高く、若い人がいないとなると、会社の将来も心配に思えたので、若い人を積極的に採用しました。

ECサイトの担当者や、広報担当者といったそれまでなかったポジションも作って、まずはどんどん変えられるところから変えていきました。

偏見に対する戦い方

27歳で家業を継ぐことを決意し、会社の抜本的な改革に取り組んでいった松崎さん。

後継者ということもあり、周りから過度な期待や偏見の目を向けられたこともあったのではないだろうか。

僕は大学生の頃から偏見の目には慣れっこだったんです。

大学生になって音楽サークルに入った影響もあって、その当時としてはかなり主張の強い髪型をしていたんです。

サイドを全部剃って、残った髪をツイストパーマの強い感じで編んだり、今ではそんなに珍しくないけど、金髪にしたり青く染めたり。

体重も140kgぐらいあったので、見た目はかなり強烈だったんじゃないかな(笑)

だからきっと『そういう人』っていう、どちらかというとネガティブに見られていたんだと思いますよ。

結果的に他人からの視線にも慣れていたので、煎餅屋に入社したときも『後継者』という見られ方をするからこそ仕事はしっかりとやろうと思っていました。

どんな格好をするか、それによって周りからどう見られてしまうかは自己責任だと思っています。

新卒で入社した社員に、ヒゲを伸ばし始めた人がいたんです。

その人には「会社員がヒゲを伸ばしていると、それを指摘されたり、不利益を被ったりすることがある。それに耐えられるなら構わないけど、それができないならやめた方がいい」と話をしました。

だから偏見を持たれることが悔しかったら、それに見合う行動や頑張りをするしかないと思っています。

『ハゲ』は髪型の一つ、特別じゃない

松崎さんは大学生だった19歳のときから20年間以上ずっと坊主・スキンヘッド。「一通り髪型で遊んだし、もともとハゲ家系。今スキンヘッドにすれば誰にもハゲはバレない」と思ったことがきっかけだ。

この20年で社会の中の坊主やスキンヘッドに対する視線は変わってきたのではないかと話す。

坊主やスキンヘッドはこの10年くらいで以前ほど特異な髪型ではなくなったような気がします。

正直、最初の頃は僕もこの頭で居づらくて。でも、今はスキンヘッドの人も坊主の人も街中でよく見かけますよね。

だから坊主やスキンヘッドを選ぶ人も増えてきているんじゃないかな。

でも、本当は「市民権を得たからよかった」という話ではなくて『ハゲ』というカテゴリがなくなることが理想ですね。

周りは面白がって指摘しますけど、それが嫌な人がもちろんいるわけです。

それに対して、例えば同じ髪型でもショートボブについては悪口にはならないし、指摘されて嫌な気持ちになる人はいない。

単純に髪型の一つだと捉えられることが理想だと思います。

自分を貫く生き方

髪型・体型・後継者。色々な偏見にさらされながらも、松崎さんの語り口からは、自分のやるべきことに真摯に向き合ってきた強さを感じる。その強さの秘訣とは何だろうか?

それには3つの理由があると思います。まず1つ目は運がよかったということですね。

僕がWEBデザイナーをしていたのは、まだインターネット成長期。黎明期とよばれるその次の時代ですね。

黎明期にWEBの知識を付けていたからこそ、需要のある成長期にそれを活かしてWEBデザイナーの肩書きを名乗ることができて、キャリアにつながりました。

2つ目は仕事以外でも自分を認めてくれる人がいたという自信。

思いっきり音楽活動をしていた時期があって、ちょっとだけ自分の知名度を感じるときがありました。SNSでエゴサーチすれば誰かが自分のことをつぶやいてくれてる。

日本国外でもライブをしていて、ミュージシャンとしても自信を持つことができました。

3つ目は創業210年の企業の社長に就任して、社会的なアイデンティティも手に入れられたこと。

キャリア・自信・アイデンティティを順調に築けていったので、偏見やプレッシャーに負けることがなかったと思っています。

そうはいっても、どれをとっても僕がたまたまその3つに恵まれただけかもしれません。

色んな人に当てはめるなら、一番は何か自信を付けることだと思いますよ。

それが職業として成り立つかはあまり重要ではなくて、大切なのは自分を認めてくれる人が周りにいる状況ですね。

それが精神的な武器になるんじゃないかと思います。

松崎さんは現在、レディースの服を好んで着用し、メンズコスメにもハマっているという。

髪型も、服装も、他人の評価のためにするのはちょっと違うと思っています。

自分がしたいからする。そして、そういう自分を好きになるためにするものなのではないかな。

ハゲている自分が嫌だったら植毛したり、剃ったりすればいいと思う。

だから僕も、今は自分の着たい服を着ようと思って、レディースラインの服を着るようになりました。

メンズよりもシルエットがユニークなものが多いんです。

化粧はメンズコスメのお店で一度試してみたら楽しくなってしまって、下地・コンシーラー・パウダーとその場で全部揃えてしまいました。

もともと撮影のときに剃り跡が青くみえるのを隠したかったからなんですが、今では撮影関係なく、単純に楽しいと思っています。アイラインも引いてみたいぐらい(笑)

ハゲているのがダサいとか、男性はメンズの服を着なきゃいけないとか、化粧をするのはおかしいとか、誰かの基準に当てはめたり、誰かと比べたりして、コンプレックスに思ったり我慢したりすることは健全じゃないし、単純に楽しくないと思っています。

誰もしていないことをするのは別に恥ずかしいことや、おかしなことではないですよね。

価値観というのは、時に他人の作った偏見の塊だ。

だから無理にその枠に自分を当てはめる必要はない。

自分だけの価値観が見つかったとき、それを大切にすればいいのではないだろうか。

 

モデル:松崎宗平 銀座 松崎煎餅 代表/ 撮影:長谷川さや / インタビュー:高山 / 編集構成:服部涼介

 

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