
ハゲは「社交ツール」だ
ハゲを強みに変えた人へのインタビューシリーズ。
今回お話を伺う中村拓海さんは、外国人雇用コンサルティングを手掛ける『株式会社ソーシャライズ』の代表取締役社長を務めている。
外国人留学生専門のキャリアアドバイザーとして、70ヵ国、2000名以上の就職相談を受けてきた。
中学生のときからすでにハゲキャラであったにも関わらず、自分の髪型に悩むことはなかった。
自分の髪型は『社交ツールだ』という中村さんの考え方は、薄毛の悩みだけに止まらず、全ての悩める人々の参考になるに違いない。
今のヘアスタイルは高校生から

『髪の毛が薄い』と中学生の頃からいじられていた中村さんが坊主になったのは、驚きのきっかけだった。
「高校の文化祭の出し物でお化け屋敷をやることになって、演出として髪の毛を散りばめようということになったんです。
どうせだったら本物を使いたいということで『僕、髪の毛いらないから、坊主にするよ』ということで自分の髪の毛を提供しました」
周りの反応はどうだったのだろうか。
「評判がよかったんです!だったら坊主のままでいようと思って、それからずっとこのスタイルです」
髪の毛が薄いことをいじられていた中学時代についてはこう振り返る。
「あまり追い込むようないじりではなくて、挨拶代わりみたい感じでした。
僕自身もそういう接し方が嫌ではなかったので、あまり気にすることなく髪が薄いことは『社交ツール』のようなものだと捉えていました。
ハゲキャラになってしまったことで傷付く方たちは、髪の毛がある時代に築き上げられてきた社会的地位やポジションがあるからだと思うんです。
髪が薄くなってしまうと、まるでそれら全てもなくなってしまったかのように感じてしまうから、そのギャップに苦しんでしまうんじゃないでしょうか。
だから中学時代からハゲキャラだとあまり傷付かないんですよね。
かえって若いうちに薄毛になった方が気が楽なのかもしれませんね」
まわりから浮いてしまうことは気にならなかった

『見た目』は他者と比較しやすく、されやすくもある。そしてそこに恐怖を感じる人も少なくない。
「僕の場合『髪が薄い』と言われることに、恐怖は全くありませんでした。
周囲から浮いてしまったり、人と違ったりすること自体があまり気にならないんです。生まれ持った気質なのかもしれませんね。
だからなのか、悩んでいる人の感情にはあまり寄り添えないんですよね」
外国人留学生の就職相談は、他人の悩みを聞いて解決に導く仕事だ。どのようなスタンスで臨んでいるのだろうか。
「就職活動がうまくいかないとか、今の職場でうまくいかないという『気持ち』にはあまり寄り添わずに、今の状況を客観的に見て次の選択肢を提案しています。
最後に選択するのはあなたの気持ち次第だけど、問題解決の手段に感情は不要。
話は聞くし、求められれば提案もするけど、最後に決めるのはあなたというスタンスでいます。
それぐらいの熱量がちょうどいいんだと思います」
就職相談を受ける姿勢としては少しドライな印象を受けるかもしれないが、起業の背景には熱い思いがある。
就職活動で抱えた疑問を解決する

「7年前の学生時代に起業しました。起業しようと思ったきっかけは、僕自身が就職活動のときに違和感を覚えたからでした。
パキスタン留学から帰国後に就職活動を始めました。スタートが他の人よりも遅くなってしまいましたが、留学経験と英語力があったので、いくつも内定をもらうことができました。
でも、同時期に就職活動していた留学生の友人たちは書類で落とされることが多かったんです」
同じ国立大学に通い、同じ日本語での授業を受けている友人と自分なのに、就活の結果に差が出ることに大きな疑問を抱いた。
そもそも日本式の採用プロセスが、外国人雇用にそぐわないのではないか。
「日本の就活のプロセスの中にSPIなどの筆記試験がありますが、留学生の考え方だと採用のポイントは会社の求めるスキルと自分のスキルがマッチするかどうか。
留学生にとってはSPIに意味を見い出せないから、試験を受けるモチベーションも上がらないんです。
さらに制限時間の中で日本式クイズを正しく処理することも難しい。
韓国や中国といった受験文化が日本と似ている国の留学生ならそういう文化も受け入れられますが、SPIに対するモチベーションそのものが上がらないんですよね」

さらに、中村さんは生涯を通じたキャリアを考える上で、日本での就職が本当に彼らにとって最善の選択なのか問いかけている。
「英語を話せる人材は優遇される一方で、日本語は世界的言語ではないので、ビジネス的価値があるのは主に日本国内だけなんです。
国際的に活躍できるキャリアを目指すのであれば、日本で働くのは数年程度で考えておいて、よりグローバルな環境で働いた方がいいだろうと伝えています」
そう思うようになったのは、自身の就活の際の面接での出来事がきっかけだった。
「僕のTOEICの点数を見た面接官に『実際どれぐらい英語が話せるんだ』と聞かれたので、
英語での面接を提案したんです。
そうしたら面接官に『いや、僕は英語が話せないから』と断られました。
そんなことが何度かあって、徐々に苛立ちに変わっていきました。
そんな企業に入社しても日本でしか働けない”閉じた”人間になってしまいますよね。
それなら、日本で就職するメリット・デメリットを外国人留学生にきちんと伝えた上で、彼らの就職をサポートしたいと思い起業しました」
思い悩む人のアクションは間違っている

中学時代に薄毛をいじられても特に悩んだり、落ち込まなかったりしなかった中村さん。
悩むことそのものがこれまでの人生を通じて少なかったという。
『悩むこと』について、中村さんはどのように考えているのだろうか。
「傍から見ていて、結果がうまくいかない人は間違ったアクションを取っています。その事実に感情的になって、どうしたらいいか整理ついていない状態が”悩み”です。
どうやってその間違いを正すかというと、冷静な目を持っている何人かの他者からアドバイスをもらうことです。
もらったアドバイスを集約して共通点を探すと、答えが見つかることがあります。
僕自身、袋小路に迷い込んでしまったときにはそうしています。
人に相談したり、アドバイスをもらったりしているうちに、環境を変えた方がいいことに気付く場合もあるし、実は本人も間違いに気付いている場合もあるんです。
状況を整理したら、あとは自分の気持ちをどうコントロールできるかですね。
何が正しいかわかっていても、それを拒んでしまうことがあると思うんです。
それには『心を整える』ことが必要でしょうね。『勇気』と捉えている人もいるかもしれません。
いずれにしても一朝一夕でできることではないので、スポーツや瞑想、ルーティンワークなどで日頃から訓練することが大事ですね」
薄毛にコンプレックスを感じてしまうと、異性にアプローチできずに悩んでしまう場合も多い。
『薄毛はモテない』という先入観が邪魔をしてしまうのだ。
『薄毛とモテ』について中村さんはこう考える。
「モテる・モテないとはそもそもどのような状況なのかですよね。
髪の毛があったときの方が、女性から声をかけられていたならそういう意味では薄毛になったらモテなくなったと捉えられると思います。
しかし、坊主になっても好きな人に自分からアプローチして成功していたら、好きになった人と結ばれることができるという意味では、本質的には変わっていませんよね。
ハゲや薄毛だからモテないと悩んでいる人は、髪型の問題ではなく行動していないだけじゃないかなと思います」
思い悩み、袋小路に入ってしまったときは自分一人で解決することは難しい。
悩むだけで行動しなければ何も変わらない。
自分では解決できないことを受け入れて、誰かにアドバイスを求めたときに、それを受け入れられる精神を鍛える必要があるのではないだろうか。
モデル:中村拓海 株式会社ソーシャライズ代表取締役社長 / 撮影:長谷川さや / インタビュー:高山 / 文:森美沙稀 / 編集:東ゆか
記事のご意見・ご感想はTwitterにて #NOHAIRS をつけて投稿してください。
お待ちしております。