
僕の中身を認めてくれる人がいる。だからもうハゲは隠さない。
ハゲを強みに変えた人へのインタビューシリーズ。
今回お話を伺う鳥山貴弘さんは、創業70年の老舗タオル卸商社『日東タオル株式会社』の専務取締役と、新しい価値を持ったタオルを企画する『モラルテックス』の代表取締役を務めている。
2021年は江戸切子とコラボしたバスタオルのクラウドファンディングで100人を超える支援者から90万円を超える支援を受けた。
タオルの新しい可能性を探る中で、鳥山さんは次なる企画のコンセプトを『タオルは手紙』だと語る。
コロナ禍で大打撃を受けた中で、ふとひらめいたこのコンセプトには、鳥山さんの半生が込められている。
切っても切り離せない鳥山さんの頭と自己肯定感の歴史を伺った。
周りからの評価は高いのに自己肯定感の低いアンバランスな子ども時代

小学1年生の終わりに円形脱毛症を発症しました。2年生のときには汎発(ばんぱつ)型といって、毛が1本もない状態になりました。
見た目についてはコンプレックスがあったんですが、一方で運動もできて地域のスキー大会や剣道大会で優勝したり、勉強もできて成績はクラスで1番だったりしました。
だから学級委員も生徒会長も頼まれる。自分でもそれが自信になるとわかっていたので引き受けていました。
でも、髪の毛がないから自己肯定感がとても低かったんです。
周りからの評価は高いのに、自己肯定感が低い。そんなアンバランスな子どもでした。
脱毛症は、10円ハゲが徐々に増えていって、大学病院で色々と治療をしました。
皮膚を切って毛根が残っていることはわかっていたんですが、どうして抜けてしまって生えてこないかはわからない。ドライアイスを直接当てる治療もしました。
中学生になると、ステロイドを頭に打つ治療も受けたりして、中学3年生の頃には9割程髪の毛が生えてきました。
小学生で脱毛症が始まって以来、ずっと被っていた帽子を取ったのは中学2年生のとき。
勉強では誰にも負けないと確信したら、精神的に帽子がいらなくなったんです。
勉強を頑張ったことで自信がついて、学校の先生が教えるよりも、僕が教えた方がわかりやすいんじゃないかとまで思うようになりました。
その体験が後に教員を目指すきっかけにもなりました。
「誰も僕を友だちだなんて思っていない」高校時代に再燃した劣等感

自信を持って高校に入学しましたが、各中学のトップクラスが集結するような学校だったので、周りに対して劣等感を抱くようになりました。
それまで僕には勉強ができるという武器があったはずなのに、それがまったく役に立たなくなったんです。
ちょっとでも手を抜けないし、地頭がいい子たちもいたので、彼らには絶対に勝てませんでした。
そうなるともう自信がなくなってしまって、友だちはいませんでしたね。
同窓会で会うと「そんなことはなかった」と言われるんです。確かに学級委員だってやっていたし、文化祭のクラスの出し物の劇の台本を書いたり、監督をしていたりもしたんですよ。
それなりに目立つポジションにはいたと思うんですが、僕にとっては友だちがいない状態。
正確に言うと「誰も僕のことを友だちだなんて思っていない」と思い込んでいたんです。
誰とも喋らない日もありました。
でも「教員になるような人間は皆勤賞を取るものだ」と当時の高校の先生から言われたので、孤独を感じながらも毎日学校に行っていました。
だから友だちなんて一人もいないと思いつつも、高校時代は皆勤賞でした。
僕の話に耳を傾け、内面を慕ってくれる仲間や生徒との出会い

大学は生まれ育った東京を離れて仙台の東北大学へ進学しました。高校時代とは打って変わって、大学生活は楽しかったです。
東北の人って優しいんですよね。土地柄もありますけど、進学したのが教育学部だったこともあって、心理学や障害児教育を学んでいる仲間が周りにたくさんいたんです。
自然と心根の優しい人が集まっていたんですね。見識も広くて、じっくり話を聞いてくれるような仲間が多くて、居心地のいい大学生活でした。
だから就職先も東北にしました。教員になるつもりでしたが、大学を出てすぐに教員になるよりも、一度一般企業で働いて社会に揉まれてからの方がいいんじゃないかと思ったんです。
就職先は経営コンサルタント会社。経済学部でも商学部の出身でもないから、経営のことなんて何もわかりませんでした。
ただただ必死に働いて、朝6時から夜12時まで会社にいて、その後は人脈を広げるために飲み歩いてという生活をしていました。
そうしたら5年程でまた髪の毛が抜けてきたんです。

そのときはもう、帽子を被って隠そうとは思いませんでした。きっと自信がついていたからだと思います。
当時、結婚を視野に入れて同棲している彼女がいたんです。彼女は僕の見た目じゃないところを好きでいてくれていたので、彼女の存在に助けられていたんだと思います。
会社でも僕のことをとても買ってくれている先輩がいて、いつも僕に「お前は絶対に将来大成するから」と言って、営業方法や先輩が持っている人脈を、僕に全て教えてくれたんです。
その先輩もきっと、僕の外見ではなくガッツや努力を認めてくれていたんだと思います。
だから僕は思うんです。見た目を気にするぐらいだったら、勉強でも仕事でも、中身を磨いた方がいいって。
髪があるかどうかなんて関係ないんですよ。例えば好きな芸能人やスポーツ選手が坊主になったら、ファンが離れますか?離れませんよね。

なぜかというと、見た目だけじゃなくて、その人の持っている可能性や活躍にみんなが惹かれているからなんですよ。
そう思えるようになったのは、つい最近のことですね。
それから教員が足りていないからと誘いを受けたので、会社員を辞めて教員になりました。
共学の学校だったんですが、そこでなんとファンができたんです!ファンの子たちは鳥山チルドレンと呼ばれていました(笑)
社会経験のある先生は、生徒に対する許容範囲が違うんですよね。生徒たちにとっては少し変わった先生なんです。そこに面白みを感じて慕ってくれる子たちがたくさんいましたね。
思い返すと、僕のことを中身で評価してくれた人たちがそれまでにもたくさんいたんですよね。
今までもらった言葉が僕に勇気と自信を与えてくれる

小学生のときも「鳥山くんはスキーが上手だね」、「剣道が上手だね」、「勉強ができるね」、「女の子に優しいね」って褒めてくれる友だちがいたんです。
「先生に何かを頼むときには鳥山くんから頼んでもらおう」と頼られてもいたし、全校で80人しかいない小さな学校だったんですが、その中にいるときは帽子を被っていなくても平気でした。
社会人になってから髪が抜けたときも、そういう友だちや恋人が周りにいたから乗り越えられたところもあると思います。
だから、自分のことを理解してくれて、励ましてくれるような存在を一人でも持てたら最高ですよね。
そういう存在や今までかけてもらった嬉しい言葉が、勝負所で自分自身にスイッチを入れてくれています。
だから、僕が人からもらって一番嬉しいものは手紙。僕は学生時代から、もらった手紙はみんなノートに貼って保管しているんです。

ときどきそれを見返して、自分のモチベーションを高めたり、企画書を書くときはそこからヒントがないか探したりしているんです。
そんなときに『タオルは手紙だ』というコンセプトを思いついたんです。
ちょうどコロナ禍で大打撃を受けて、打開策を探していたときでした。
タオルはお祝い事や何かのお礼に贈るコミュニケーションツールでもあることに気が付きました。
そこで、手書きの文章を手紙の代わりにタオルに刺繍したり、コミュニケーションツールとして利用したりするサービスがあったらいいんじゃないかと、今企画を練っています。
これはまだ卵状態のアイデアで、コンセプトが先行している感じですが、必ず実現させたいと思っています。
努力ができる人ほど自己評価が低くなりがちなのかもしれない。
「自信が持てない」。そう思ったときには、一つでもいいから、人から褒められたこと、認められたことを思い出してみたい。
モデル:鳥山貴弘 日東タオル株式会社専務取締役、モラルテックス代表取締役 / 撮影:長谷川さや / インタビュー:高山 / 編集構成:東ゆか