
自分らしく、理想を追求する
株式会社しくみデザイン代表取締役の中村俊介さん。
世界に楽しさを提供する彼もまた、NOHAIRSの一員である。
自分の考えに正直に生きる中村さんのルーツ、そして価値観についてお話を伺った。
人や物との出会いが人生の転機に

——『株式会社しくみデザイン』は、一見何をされているのかなと思う不思議な社名ですね。どのような事業を手掛けていらっしゃいますか?
誰もがクリエイターになれる創造的プログラミングアプリ「Springin’(スプリンギン)」を開発、運営しています。
起業した当初は、人の動きに反応して映像が動くデジタルサイネージを作っていました。
ただ作り込んで見てもらうだけの映像ではなく、見ている人の動きに反応させたらおもしろいのではないかと提案をして、最初は広告として使用されました。
徐々に規模が大きくなって、今ではイベント会場で、お客さんが参加して楽しんだり、コンサート会場でのリアルな演出効果を出したりと、幅広いシーンで使われるようになりました。
会社は今年で17期目を迎えます。設立の1年前まで僕は大学院生だったんです。
当時、建築学科を経て九州芸術工科大学の大学院でメディアアート作品を作っていました。
作品を作りたい思いで、親の反対を押し切って進学した手前、学費や生活費は自分で捻出していたのですが、アルバイトをするよりも自分の作品でお金を稼ごうと思って、いくつかのコンテストに応募しました。
2年間で200万円ぐらいの賞金を獲得することができた中で、転機となった作品が『KAGURA』でした。
『KAGURA』は身体を動かすことで演奏できる楽器で、大学院在学中に、メディア・アートのアワードを受賞して、特許や補助金を得ることができました。
当時、大学発のヤングベンチャーを応援しようという世の中の動きもあり、いただいた補助金で会社を設立しました。
——今でもご自身でデザインや開発をされているんですか?
いいえ。今は経営に注力しています。
もともと会社を立ち上げた理由の一つに、僕以外のプロフェッショナルと協力したいという思いがあったんです。
そう感じさせてくれたのは、同じ研究室の後輩です。
僕よりも絵が上手だったり、技術的にできることがたくさんあったりする後輩で、僕がコンセプトを考えて、彼がデザインした作品の出来がとてもよくて、僕一人では作れない作品ができあがりました。
このことから得意なことを持ち寄って作品を作ることは素晴らしいと感じたんです。
僕はアイデアを出すことは得意でも、細かい実装や突き詰めて作り上げることはあまり得意ではなかったんです。
僕ができないことをできる人を集めたら、すごい会社が作れるんじゃないかと思ったことが起業のきっかけでした。
実は、街中やイベント会場で見かける、人に反応して動くデジタルサイネージの多くは僕の会社で作ったものなんです。
たくさんの方に楽しんでもらえるものづくりができる会社になりました。
そして今、自分たちがクリエイターであるだけではなく、世界中の人をクリエイターにする『クリエイタークリエイター』になろうとしています。
楽であることの追求

——髪型の遍歴を教えてください。
高校時代までは伸びたら切るを繰り返す、至って普通の髪型をしていました。
大学に入ってからは、染める勇気はなかったんですが、スプレーで一時的に色を付けたり、前髪をちょっと伸ばしたりしていました。
薄くなっていると自覚したのは、大学院生になった23歳くらいのときでした。
それと同時に、だんだんと髪の毛を伸ばすことはなくなっていきましたね。
28歳のときに大学院を卒業して、会社経営をしながら、大学の講師もやっていたんですが、若く見られてしまって、学生からも大学の事務の方からも先生として全く認識してもらえなかったんです。
そこで、「立場も環境も変わったことだし、見た目を変えてみよう」と思ってまずヒゲを伸ばしました。
そこで、ちょうど薄くなってきたことだし、坊主もいいんじゃないかと思ったんです。
バリカンで簡単に坊主にできたので、これからは美容室に行かなくてもいいんじゃないかと思いました。
それ以来ずっと坊主ですね。
どうせ坊主にするなら、できるだけ早くやった方がいいと思います。
お洒落の一環として捉えてもらえますから。
薄毛を気にしなくてもいいし、とても楽です。
薄毛を少し気にしていたときに、髪にいいシャンプーを使っていましたが、あまり効果を感じることができず、コンプレックス商材に頼るのも嫌でした。
精神的にも身だしなみの面でも、いかに楽で快適かを追求するなら、坊主一択だと思いますよ。
その瞬間でベストだと思うものを

——どうして薄毛をそこまで気にしなかったのでしょうか?
小さい頃太っていたので、自分の容姿に対するコンプレックスがずっとあったんですよ。
そもそも容姿には自信がなく、自分の強みはそこじゃないと思っていたので、薄毛が気にならなかったんですね。
もし、容姿の良さが自分の強みだと思っていたら、髪が薄くなったことにとてもショックを受けたかもしれません。
あとは、楽観的な性格ということもあるかもしれませんね。
大事なのは自身のブランディング

——周りと違うことにコンプレックスを抱いてしまう人は少なくないと思います。自分がいいと思えればそれでいいのだと思いますが、そこまで強い心を持つことは難しいのではないかと思います。大人になってから周囲に惑わされない価値基準を持つにはどうすればいいでしょうか?
今、質問されて気が付いたんですが、僕が派手な服を好んで着ているのは、もしかしたら自分の価値基準を保つ一環なのではないかと思えました。
どういうことかというと、イメージ作りなんですね。
個性的な人だと思われれば、何をしても「まぁそういう人だよね」と、受け入れてもらえるのではないかと思います。
僕の場合は、それが服なんですよ。個性的なやつだと思われれば勝ちです。
メディアアーティストだったこともあって、他と違う、目立つことは良いことだったんです。
だから坊主にしたときも「まぁ俊介だしね」ということで、特に変に思われることもなかったと思います。
他人の目が気になるなら、いきなり坊主やスキンヘッドにするのは難しいかもしれません。
まず一つでも個性を発揮するような自分のアイコンを作って、それをきっかけに自由に振る舞えればいいのではないでしょうか。
強い個性を持っていたらみんなそちらに目が行くし、もし薄毛で悩んでいたとしても、それをわざわざ隠す必要がなくなります。
自分自身のフックになるようなものをいくつか持っておくと、次第にそれがその人のアイデンティティのようなものになっていくはずです。
常に自分らしく、楽しさを追求する中村さん。
心の赴くまま、自分がいいと思えるものを選択し続けることこそ、自分の真価を発揮し、何より自分らしく生きるためのエッセンスなのかもしれない。
モデル:中村俊介 株式会社しくみデザイン代表取締役 / インタビュー:高山 / 編集構成:服部涼介