
ネガティブなことが僕をポジティブに変化させた——さらけ出し、共感し、前進し続けるために
いつものように『ハゲ』の波に乗ってネットを徘徊していると、「さとなおの『ハゲの悩み相談室』」というエントリーを見つけた。山の稜線をバックに、ハゲの稜線を収めたサムネイル画像が印象的だ。
今回お話を伺うのは、その執筆者でもあり、コミュニケーション・ディレクター、クリエイティブ・ディレクター、エッセイストとして幅広くご活躍されている佐藤尚之さんだ。
ファンが涙した『スラムダンク1億冊キャンペーン』の広告を手がけられ、『明日の広告』『ファンベース』などの著書でもおなじみだ。
30歳くらいまでは薄毛をじくじくと悩んでいた
——スキンヘッドにされて15年とお聞きしました。『ハゲの悩み相談室』はハゲをオープンに振り切った記事でしたが、最初から薄毛を受け入れられたわけではなかったとか?
じくじく悩んでいる時期が長かったと思います。
もともと毛質が細くてふわふわで、学生時代はナチュラルな7:3の髪型にしていました。
20代前半ぐらいから「薄いな」と言われるようになりましたが、まだ地肌は見えていませんでした。でもプールに入ったりすると髪がベタっと見えちゃったりして、それなりに悩んでいましたね。
30歳のころにちょっと髪が立つぐらいのオールバックにしました。おでこを初めて出したのが、一番最初のハードルでしたね。
髪型をまったく変えて、おでこを出した。それは僕の中ではハゲをネガティブから、ポジティブに変える最初の転換点でした。
——おでこを出す前は隠すような髪型でしたか?
そうです。隠していたし、頭頂部もかなり薄くなっていたので、風の日とか妙に卑屈になるんですよ。手で髪を押さえたりしてね。
座ってて誰かが後ろに立つと殺意を覚えましたね(笑)。
会議室でも後ろに立たれて頭頂部を見られるのがイヤで、後ろに立たれない席はどこだろうとか常に考えていました。
でもそんなことをずっと考えている自分が嫌で、オールバックにしておでこを出したんです。オールバックだと頭頂部も隠れ気味になるし。
で、その途端にものすごくモテるようになりました。
——髪型の変化と一緒に内面の変化もありましたか?
変わりましたね。まず風を怖がらなくなりましたし、会議室の席についても以前より気にならなくなりました。
今まで隠していたものをさらけ出すことによって性格というか、他人へのアプローチが少しオープンになりました。
当時は、若い時期特有の、なんというか異性のことしか考えていないような時期だったんですけど、「女性はハゲが嫌いなんじゃなくて、ハゲをウジウジ気にしているやつが嫌なんだ」ということに気が付きましたね。
ウジウジしなくなったらモテた。
人生を変えたければ、まず髪型から

——NOHAIRSには10代20代の方からも薄毛についての相談が来ます。周りに薄毛の悩みを相談できないことで、更に悩みを深めているようです。そんな方たちに佐藤さんからメッセージがあるとすれば・・・?
多くの人が「今の自分に似合う髪型」や「自分をより引き立てる髪型」にしようとするじゃないですか。
僕はそれでは精神的に前に進むことはできないと思っています。
僕が勧めたいのは『髪型に合わせて性格を変えていく』ということ。
似合う髪型にしてポジティブになるというのはまだまだ甘いですね。
極端に言うと、モヒカンにしたら性格が変わると思うんです。そういう意味で、髪型を変えることは、服装を変えるよりも、もっと大きく人生を変える一つのツールだと思っています。
薄くなったからスキンヘッドにするのではなくて、自分はスキンヘッド的な人生に一歩前に進むんだと考えれば、全く違う自分が出てくるものだと思いますよ。
僕の場合は、スキンヘッドにすることでネガティブから逃れられ、大きなポジティブがやってきたわけです。自分の意思で髪型を変えることで、前進したり成長できるわけ。まずは髪型を変えてみることをオススメしたいですね。
——髪型が先行して、内面も変わるということですね。
髪型を大きく変えると、ファッションだけでなく、あらゆることが変わります。
もし髪がフサフサにあっても、そこからオールバックやスキンヘッドにすることはかなり『攻め』になりますよね。ファッションにおいても今まで着なかったものを着るようになるじゃないですか。
僕もスキンヘッドにしたことで、ゴツい系のファッションになった時期がありました。
スキンヘッドは工夫すればどんなファッションにも似合う髪型だと思うので、ファッションの選択肢も広がると思いますよ。
人は変わり続ける必要がある

——『髪型を変えることで性格や人生が変わる』とは新しい視点だと思います。一方で、ある程度大人になったら自分を変えられないとも言われています。『変化』というものについてどのように考えられていますか?
『自分を変えられない』ということは、停止してしまうということなのではないでしょうか。
たとえば、大きな賞を取った有名なクリエイターでも、10年くらい経つと業界からいなくなっちゃう人が意外と多いんですね。
なぜかというと、一度大きく認められてしまったことで、そこで停止してしまうんです。
「賞を獲った時のような、あんな仕事をお願いします」みたいな依頼も増えたりすることもあり、だんだん自己模倣モードにも入ってしまったりして前に進まなくなる。止まるんですよ
でも時代は動いていくから、ふと気がつくと古くなっているんです。
それとは逆に、長く活躍できる人というのは時代時代に合わせてどんどん変われる人なんですね。
人間を変える、自分を変える、なんてオーバーなことではなくて、前進や成長をキープするために、立ち位置を変えていかないといけない、ということなのだと思います。
それが大切な本質を守ることにもつながります。『変わらないために変わり続ける』という言葉がありますが、そういうことですよね。
変わらないことに意味はありません。変わり続けることが必要だと思っています。
特にいまは時代の流れがものすごく早いので、変わらないと対応できないことがたくさんありますよね。
ネガティブはポジティブの母であり、変化の父

『変化』というのは前向きな言葉だ。しかし「ハゲていることに悩み、前向きになれません」という悩みもよく聞く。
ポジティブな事柄こそが自分を好転させてくれると思いがちだが、佐藤さんは必ずしもそうではないと語る。
髪の毛のこともそうですが、以前はネガティブに思っていたことが変化して、ポジティブな変化になったことはたくさんあります。
僕は東京生まれ東京育ちですが、会社員時代に大阪配属になったんです。僕にとってこれは超ネガティブな事柄で、会社を辞めようかと思ったぐらいです。
でも結果的には最高でした。関西に15年いましたが、関西に行かなかった自分の人生なんて想像つかないぐらいです。東京に住んでいる今も、関西ラブですね。大好きだし、いろいろと僕を変えてくれた大切な場所。
あのまま東京にいたら何も変わらなかったと思うし、そういうことってたくさんありますね。
——自分でポジティブに変えてやるぞ、という気合いのようなものはありましたか?
ネガティブに思っていることって、『変えてやろう』って一時の気合いだけではなかなか変えられないし、変えても長持ちしません。そうではなくて、視点をちょっと中長期的にもっていくことが重要だと思っています。
ほとんどのネガティブは、長い間にポジティブに変わるんですよ。そのネガティブから学びさえすれば。
ネガティブと向き合うことで、変な話、世の中の弱者への視点も広がるし、人への思いやりも増えるんです。そして人間としての厚みも出来てくる。それが魅力になってくる。
ネガティブがあったからこそ学べたと数年後に気が付くようなことってとても多いと思いますよ。
人間、ポジティブなことばかりではハードルがないので成長しないんじゃないですかね。天に与えられたネガティブなことは、成長の大きなきっかけになるのではないかと思います。
僕は2018年に突然アニサキス・アレルギーになって、ほとんどの魚介類が食べられなくなってしまいました。
食が趣味でグルメガイド本まで出していた僕にとっては、本当に死にたくなるような出来事でした。今もネガティブに悩んでいる最中です。
でも、きっとここから学びを得さえすれば、これは大きなポジティブへの入口のはずなんです。色々な意味で良い変化も出てきていると感じています。
ネガティブはポジティブの母であり、変化の父ですね。
※佐藤さんは現在、魚介類を一切摂取しないアレルギー治療を行っている。しかし大好物だった魚介類を口にできない治療はとてもつらい。そこで『アレルギーと闘うために、アレルギー治療よりももっとつらいことを課す』というコンセプトで『1000日チャレンジ』を行っている。いくつか達成したいことを決め、達成のために1000日間取り組むというチャレンジだ。2019年7月に開始し、現在も継続中。
さらけ出すことが共感を生む第一歩

——NOHAIRSには、「自分がハゲているから女性にモテないのではないか」という悩みも寄せられます。
パートナーができないという孤独や、周りにハゲている人がいないから、誰からも共感してもらえない孤独を抱えてしまう人も多いようです。
『モテたい』とは広くあまねくモテたいということですかね? それってナンセンスだと思いますね。
広告やマーケティングにおいて、『ファンベース』(ファンを大切にし、ファンをベースにして中長期的に売上や価値を上げていく考え方)という考え方をボクはここんとこずっと主張しているのですが、その考え方の根本に『パレートの法則』(20%のファンが80%の売上を支えているという法則)というのがあって、この、あらゆる分野に当てはまる有名な経験則に寄せると、たぶん、人って最終的に、10人中2人くらいがファンになってくれる、つまりモテる、っていうあたりに落ち着くと思うんですよ。
ほんと、あらゆる諸相においてパレートの法則はだいたい当てはまるので。つまり、20%の人にモテればいい。みんなに好かれる必要はない。というか無理。
もっと言うと、ハゲだろうが、好いてくれる女性が2割はいるわけです。その人たちにフォーカスを当てて、もっと好かれる自分になることが大切なんだと思いますよ。
なんで広くあまねくみんなに好かれることを望むのでしょうね。そのアプローチは間違っています。みんなに好かれようとするとみんなを失うんです。
確かにハゲを嫌いな女性は一定数はいます。でも、ハゲ好きも一定数いますよ。そして彼女たちのほうが、見た目ではなく本質を見てくれる「いいオンナ」だと、ボクは思いますね。まぁLGBTQの時代なので女性に限りませんが。
ちなみに、「共感」という観点からいうと、人に弱みとか隙を見せた方が共感が得られやすいんです。
見栄を張らないことです。恥と思う部分をガチガチに隠した自分なんて、誰からも共感されないんですよ。

隠して生きていくというのも一つの生き方なので、それは否定しません。たとえばカツラやウィッグにボクは肯定的です。それを楽しんでいるのであれば。
LGBTQが市民権を得たように、ハゲの人権も普通に認められて、カツラとかもファッションアイテムとして普通になる時代はもう近いと思いますよ。
でも、ファッションとして楽しむのでないのなら、どうせだったらさらけ出した方が良いのではないかとも思います。ハゲ程度のことであれば、なおさらです。そう、ハゲ程度のことですよ。
例えば、素敵な女優さんの部屋が意外にも汚かったりすると、逆にちょっと共感したり、親近感を持ったりしますよね。そういう人間的な隙や弱みって、人を魅力的に見せるんです。
それに、人は自分と同じところにしか共感しないんですね。
人は、他人である相手の中に「自分と同じところ」を見出すために対話をするんです。おしゃべりをするんです。そうして共感しあうわけです。
共感とはそうやって起こる。
つまり、自分を見せないと、共感は永遠に起こらない。
——受け取り手もそれまでは自覚していなくても、相手の話を聞くことで気が付くこともありますよね。
そうです。「なんだろう?」と思って相手の中に一歩踏み込むことで、自分と同じところを見つけて共感するんです。
例えば女性が、ミスチルの桜井さんの曲に共感しますよね? でも性も違うし年齢も違うし、生きてきた道も想いもまったく違う桜井さんに、なぜ共感を抱けるのでしょう?
そう、元々共感できるわけないんです。桜井さんとは別の人生なんだから、桜井さんの中に自分と同じ部分がみつかるはずがない。でも、だからこそ、たまたま同じ部分がみつかると強く共感するわけです。つまり感動ですね。
桜井さんが自分をさらけだした非常に個人的な恋の歌を作ると、それが個人的な叫びである分だけ自分にはわからず、「いったい何のことだろう?」と人は1歩も2歩もその中に踏み込んでいくんですね。
で、発見するわけです。「ああ、そういうことか、それって私と同じだ!」「私もそういうときそう思う!」って。そうして同じところを見つけると、それがハードル高ければ高いほど、鳥肌が立つような共感、つまり感動が生まれるんです。
でももし桜井さんが一般人に合わせて、「恋っていいよね」みたいな一般的な恋の歌を作ったら、「ま、そりゃそうだね」っていう薄い共感しか得られません。
誰もその歌の中に踏み込んでいかないからです。一般論とかポジショントークが共感も感動も生まないのはそういうことです。
何が言いたいかというと、共感を得るためには、「自分そのもの」をさらけだす必要があるんです。さらけ出すと、他人である相手が「なんだろう?」と思って1歩も2歩も踏み込んでくれる。そして強い共感が起こるんです。
あ、ハゲが共感を生む、って話じゃないですよ (笑)。ウジウジ隠してしまうと、相手が踏み込んでこないので共感は得られにくいってこと。
それより「オレはこうだ」ってさらしたほうが相手が入って来やすいのでずっと共感を得られる、と、そういうことです。
ハゲもアレルギーも被災も、ポジティブに変化した

——そういう意味でいうと、佐藤さんの「さとなおの『ハゲの悩み相談室』」のサムネイル画像は、頭の形と山の稜線を相似形に並べたユーモアのある画像で、ご自身をさらけ出されている感じがします。あの画像を見たときに、不思議と和んだことを覚えています。
あそこまでできる自分になったのが超成長ですね(笑)。要するにもう心からハゲをネガティブに思っていないということです。
よくよく見ると頭頂部のシミも写っているんですよ。汚いですよね(笑)。でもそれも気にならなかったぐらいなので、何というか成長したなーオレ、って。ハゲが人間的な成長をさせてくれたんだと思っています。
——『ハゲると人に優しくなる』という言葉を、今までお会いしたNOHAIRSの方から聞くことが多かったです。佐藤さんもそう感じたりしますか?
人の痛みがわかりますからね。髪の毛の薄い人に優しくなれるのはもちろん、いろんなネガティブに対して優しくなれます。だからどうせハゲるなら、早い方が良いと思っています。人の痛みがわかる後半生はいいですよー。人も寄ってきてくれますし。
先述の通り、僕は食物アレルギーになってしまって、ほとんどの魚介類が食べられなくなってしまいました。
そうすると気づくわけです。僕はこれまでお酒が飲めない人に対してイヤなことを言ってきちゃったなぁって。「えー飲めないの?」とか「お酒飲めないなんて不幸だねー」とかね。
いや、ホントひどかった。ホント申し訳なかった、と思います。一事が万事そういうことで、不自由を獲得するとその辺の「見えてなかった感情」に気づくんですよ。
ちょっとレベルは違うかもしれませんが、障がい者の気持ちも以前よりずっと理解できるようになりました。いやほんと、体験しないとわからないことって多いですよね。
僕は阪神淡路大震災のとき神戸に住んでいて、被災者なんです。
震災の前にも利尻島の噴火や雲仙普賢岳の災害がありましたが、そういう災害をテレビとかで見ても、「大変だな」ぐらいにしか思っていませんでした。
でも被災したことで、それがどれだけ大変なことかということが身をもってわかったんですね。
体験したからこそわかることですね。被災というネガティブな経験が、ある意味ポジティブに変化し、思いやりや想像力が増えたということです。
そういう経験が増えれば増えるほど、人に優しくなっていきます。ハゲもそのひとつだと思いますね。
3.11で支援活動に没入しましたが(佐藤さんはいずれもボランティアで、震災支援情報サイト『助けあいジャパン』の立ち上げと運営に尽力され、内閣官房震災ボランティア連携室の一員としても活動された。)、それも自分の体験からきているものだと思います。そうでなかったらとてもあんな大変なこと、できなかったなぁと思います。
『ハゲ』に関わらず、私たちの前には様々なハードルがある。
しかしそれを飛び越えたことで、ネガティブだったことがポジティブなものへ変化し、自分が前進する一歩となってくれる。
佐藤さんのお話から、一歩前へ進むためのヒントをたくさんいただいた。
●佐藤尚之さんのnoteはこちら
佐藤尚之 コミュニケーション・ディレクター / 撮影:長谷川さや / インタビュー:高山 / 編集構成:東ゆか
