
ローマ法王に米を食べさせた男!?公務員・高野誠鮮さん
みなさんこんにちは。
スキンヘッド歴16年の太田政晴です。
バリカンの坊主を経てスキンヘッドになってから、現在は週に2回、年間で100回頭を剃っています。
今回もスキンヘッドのプロと言っても過言ではない私が、スキンヘッドの有名人の自叙伝のレビューをしていきます。
その有名人は、公務員の『高野誠鮮』さん。
自叙伝のタイトルは『ローマ法王に米を食べさせた男』(講談社+α新書)

『ローマ法王に米を食べさせた男』とは一体どういう意味なのでしょうか。
本書はたった169世帯の集落のコシヒカリのブランド米化に成功し、なんとローマ法にまで献上した高野さんの挑戦が描かれています。
個人で物販をしている僕としては、高野さんの挑戦にとても共感するところがありました。
今回はそんな高野さんの挑戦をご紹介したいと思います。
高野誠鮮さんの経歴
生年月日:1955年11月2日生(65歳)※2020年12月現在
出身地:石川県羽咋市
職業
- 大学講師・特別客員教授
- 地方創生アドバイザー
- 元羽咋市教育委員会文化財室長
- 日蓮宗僧侶
実績
- 毎日地方自治大賞特別賞受賞(2005年)
- 全国地産地消推進協議会長賞特別賞受賞(2009年)
予算たった60万円!でも限界集落を盛り上げたい

石川県羽咋市役所の教育委員会生涯学習課に所属していた高野さんは、突然農林水産課へ異動になります。
理由は、高野さんのやることを全て否定する上司に常に意見をしていたからです。
「そんなことで?」と思うかもしれませんが、公務員の世界ではよくあることです。俗に言う『出る杭は打たれる』というものです。
もともと農業に全く興味がなかった高野さんでしたが、羽咋市の農家を調査していくうちに、低所得、高齢化、離村、故郷に誇りを持てないなどの問題が発覚したため、『1.5次産業化』を進めることにしました。(特に市内で人口減少が顕著な神小原地区)
1.5次産業化とは、農作物はJAに出さずに加工して付加価値を付けて自分たちで売るというものです。
しかしこの事業の予算はたった60万円。
農家の説明会で『農家の自立・自活』を言ったときにはヤジや怒号が飛び交い荒れました。
しかもJAの補助は得られず、役所からの支援もが十分に得られないことに特に反発しました。
そこで高野さんは、その年に生産される新米50俵(3000kg)を預かり売ることにしました。
まずは自分がやってみせて、相手にやってもらい納得しないと人は動かないからです。
しかし新米を提供してくれた稲作農家は169世帯中、はわずか3世帯だけでした。
ここで高野さんは、新米50俵売り、より多くの賛同を得るためにアメリカのCIAの戦略である『ロバートソン査問会』のレポートを参考にします。
地元農家の方たちの心を動かした3つの施策とは?
人の心を掴む『ロバートソン査問会』作戦
『ロバートソン査問会』のレポートでは、1つの方向に人が動くときには、目と耳から入った情報が重要だということが示されています。
なので、村を動かすためには常に話題の中心をこの神小原を置けばいいと考えました。村発のニュースを地元紙をはじめとする地域メディアで村発のニュースを発信し続けました。
そうすることにより地域の方々から「神小原のことを真剣に考えてくれてる」と思ってもらうことができました。県外の人たちに村の魅力知ってもらえたことで神小原の人の心を動かすことができたのです。
良いものは高くても売れる!農家経営の直売所をオープン
次に、農家の方たちと一緒に、農業で億単位の売上げを上げてている直売所の視察に行きました。農作物がスーパーより高くても残留農薬がない安全なものを売る『高くても売れる店』を実際に見て、『JAを通さずに自分たちだけでも農作物を売ることができる』ということを農家の方々に実感してもらい、神小原で農家経営の直売所をオープンさせました。
生産者名が記載された野菜、米、そばや、それらを使った加工品を販売し、半年の売上げ目標2,000万円に対して6,800万円を達成します。
稲作を通じて神子原を体験してもらう棚田オーナー制度
その次は、『棚田オーナー制度』を開始しました。
米40kgに対して1口3万円でオーナー契約してもらい、田植えと刈り取りの時期に届ける作業をしてもらい、収穫した米を届けるシステムです。
これはオーナーたちに農作業を手伝ってもらうだけではなく、現地を訪れることで現地の名産である濁り酒や山菜などを食べてもらって、美味しい食材によるリピーターを増やすことが目的です。
さらにこの高野さんのスケールの大きいところは、なんとイギリスの通信社ロイターでオーナー制度の募集をかけてもらったということです。
イギリスの新聞『ガーディアン』に掲載され、それを見たイギリス領事館から連絡がきて、オーナー第1号になってもらいました。
そのおかげで取材が殺到し、地元の新聞やメディアでも紹介され、神小原にたくさん人が訪れるようになりました。
『ニュースの発信』『農家経営の直売所』『棚田オーナー制度』の施策によって、預かった神子原米を売ることに成功しました。
神小原=son of God dwells ——500人の集落で作る米がローマ法王御用達米へ

神小原地区の過疎集落を活性化するために『1.5次産業化』や『棚田オーナー制度』などを行ってきた高野さん。ここで羽咋市長から1年以内にブランド農作物を作る『山彦計画』という宿題を出されます。
1996年の『全国の美味しいお米ベスト10』に羽咋のコシヒカリが第3位に選ばれました。調査をしたところ、それは神小原地区のコシヒカリであることが発覚します。
なぜ神小原地区のコシヒカリは美味しいのでしょうか?
更に調査を進めると、神小原地区の気候にその秘密があることがわかりました。
神小原地区は山間地特有の昼夜の寒暖差が激しく、稲が鍛えられ、豪雪地帯の冬の雪解け水の清流によって稲が育てられているのです。
高野さんは「品質には自信が持てる。あとは売り方のアイデアを出せば売れる」と確信します。そこで『ロンギング作戦』を思いつきます。
『ロンギング作戦』とは、人は有名人が持つ物や飲食物に憧れる傾向があり、有名人の社会的影響力が強いほどブランド力が高くなることです。
昨今のインフルエンサーによるマーケティングもこの法則に則ったものです。
つまり有名人に「いつも神小原米を美味しく食べています」ということを発信してもらうことを思いつきました。
そこでふと、神小原を英訳してみました。
『The highlands where the son of God dwells』
『サン・オブ・ゴッド』は『神の子』。神の子といえば『イエス・キリスト』です。
キリスト教で影響力がある人物は『ローマ法王』しかいないと考え、大使館経由で手紙を送ります。
高野さんの熱意が通じたのか、なんとローマ法王庁から「あなたがたは、法王様に手紙を書きましたね。大使ならびに代理大使がお話を聞きたいとお待ちになっています」と返事がきたのです。
大使館に出向いた高野さんが、大使に新米を渡したところ、こう言われました。
「あなたがたの神小原は500人の小さな集落ですよね。私たちバチカンは800人足らずの世界一小さな国なんです。小さな村から小さな国への架け橋を我々がさせていただきます」
(本書・P.104より引用)
正式にローマ法王への献上物してもらうことに成功しました。
また過去に日本からローマ法王へ献上した品物の中に、お米がないことが分かったため、史上初のローマ法王への献上米として『ローマ法王御用達米』として宣伝します。
このことを地元の北國新聞や現地のカトリック新聞にも記事にしてもらい、大使に新米を献上してから2日後に神小原米は驚くほどの勢いで売れ出しました。
当初用意していた50俵を大幅に上回り、1ヶ月で700俵も売れました。
ブランディングは「ローマ法王御用達米」としてだけでなく、『羽咋のコシヒカリ』として販売していた地元米に『能登 神子原米』と名付けパッケージデザインにもこだわりました。
米の袋のデザインを、エルメスのスカーフをデザインしたこともある書道家の吉川壽一(じゅいち)先生に書いてもらいます。
しかし立ちはだかったのは予算でした。そこで高野さんは吉川先生へ次のような熱意のこもった手紙を書きました。
「先生、お礼にお米を30kgしか差し上げられないんですが、ぜひ一筆『能登 神小原米』と書いてください。お願いします。先生のその筆が村を救います」
(本書・P.110より引用)
高野さんの熱意が伝わり、吉川先生は一筆書くことを承諾します。
これには理由があり、神小原米を買った人がエルメスのうんちくの1つとして人に話したくなるようなストーリー性を持たせることが狙いでした。
例えばこのお米を買ったエルメスのフリークに「あの筆遣いは吉川先生のものだ」と気付かせ、人に話したくなるエピソードにすることにより、口コミで広がることを狙いました。
神小原米がローマ法王御用達米になり、有名な書道家にパッケージデザインに関わってもらったことで、農家の人たちはとても喜んでくれました。
今でも『能登 神小原米』は神小原のブランド米としてトップの売上げを確保しています。
山川草木悉有仏性(さんせんそうもくしつうぶっしょう)——害虫と呼ばれる虫にも存在価値がある

高野さんはお米の自然栽培にも着手します。
もともと日蓮宗僧侶ということもあり、仏教思想でもある『山川草木悉有仏性』という考え方に至ります。
これは地球上に存在するものは、すべて必要なものであり。不要なものはないという考え方です。
多くの農家の人たちは、雑草が害虫の温床で農作物の生育を妨げるものと刷り込まれているので、農薬を使って害虫を駆除します。
しかし『山川草木悉有仏性』という考え方に基づいて、害虫も生態系に必要な事柄のの一つと考える自然栽培に着手しました。
そんな自然栽培で作った神子原米は、農家の人たちが「昔のなつかしい味」と感じるお米に育ちました。
70代以上の人たちにとって、自然栽培で作った米の味は戦前の化学肥料や農薬を使わなかった頃の米の味とよく似ていたのです。
もともと美味しい米ができる条件に恵まれていた神子原地区でしたが、新たな生産方法を取り入れることで、さらに美味しいお米を作ることができるようなったのです。
スキンヘッドのプロの僕はこう思った
今回高野さんの限界集落を立て直す色々なプロジェクトを見て、高野さんは行動力がある人だと思いました。
とりあえずやってみて、駄目ならまた次の方法を考える、走りながら考えるという失敗を恐れない姿勢に感動しました。
僕自身も個人で物販をしています。
始めた当初は不安でしたが、とりあえず自分のできるアイデアを実行して成功するまでやり続けた結果、完売することができました。高野さんの地域米を売り出していこうという姿勢にとても共感しました。
高野さんは人を動かすために『ロバートソン査問会』のレポート、ブランド力を高めるには『ロンギング作戦』を参考にされていました。成功事例を徹底的に調査し、それを目の前の問題に落とし込み実行する姿勢は勉強になりました。
何かを始めるときには、困難が待ち受けていることが多いものです。そんなときは、高野さんの熱意や発想、行動力が参考になるのではないかと本書を読んで思いました。